こんにちは!
今回は交渉・調整の技術についてご紹介します。
公務員の仕事は「板挟みになってからが本番」と言われるくらい “調整に次ぐ調整” です。
特に幹部公務員になると、根回し・業界折衝の技術がマストになります。
私も公務員時代はかなり調整業務に携わっていましたし、書籍も読み込んで学んできましたので、基本的な考え方についてご紹介できればと思います。
では、いきましょう!
前提となる考え方
交渉のイメージ自体は皆あると思いますが、どういった考え方に沿ってやるべきかのイメージを持っている人は少ないのではないでしょうか。
私自身も
交渉では、ふっかければいいのかな?
とか、
相手の要求を取り下げさせて、自分の要求を100%通すのが交渉!
とか考えてました。
まずは交渉において前提となる考え方についていくつかご紹介します。
絶対に守るべきもの以外は基本的に譲る
交渉で絶対理解しておかなければいけないのは、「絶対に守るべきもの以外は基本的に譲る」ということです。
自分の要求を100%通そうとしてはいけません。
交渉に当たっては、
- 自分が絶対譲れないところを整理しておく
- 相手が譲れないと考えているところを対話の中で探る
ということを通じて、「落とし所」を探っていくことになります。
そして、自分が絶対譲れないところを守るため、それ以外の部分は基本的に譲る覚悟で
こっちはAAAを譲るから、あなたはBBBを譲ってください
と交渉材料にしていくことになります。
特に「自分が絶対譲れないところを整理しておく」は究極的に重要です。
そして「絶対譲れないところ」は、極力狭い範囲にしておく必要があります。
例えば、外国との自由貿易協定の交渉において
日本の農業は絶対に守る!
と抽象的な最終防衛ラインを設定するよりも、
日本のコメは絶対に守る!
と、より具体的で狭い最終防衛ラインを設定した方が、交渉は成功しやすいです。
そして、より具体的で狭い最終防衛ラインを設定するためには、自らの要求に優先順位をつけ、
ここは絶対譲れないところで、それ以外は最悪譲るところだ
と味方内部で合意しておく必要があります。
この「味方内部で合意しておく」というのがかなり難易度が高く、相当の労力を投入する必要があります。
交渉は、相手とのやり取りよりも、味方内部でのやり取りの方がしんどい時がありますので、覚悟しておきましょう。
交渉が決裂した場合をはじめに想定しておく
交渉は準備が9割と言われています。
準備では「自分が絶対譲れないところを整理しておく」だけでなく、
この交渉が上手くいかなかったら、どうすればいいだろうか?
と、交渉が決裂した場合を想定し、対策を練っておきましょう。
交渉が決裂した場合に取れる選択肢のことを、専門的には「バトナ」と呼んだりします。
交渉が決裂した場合に取れる選択肢がたくさんあれば、
この交渉がダメでも、他に手はある!
と考えられて、強気で交渉に臨むことができます。
一方で、交渉が決裂した場合に取れる選択肢が全くないのであれば、この交渉を締結するしかなく、相手の要求に対してはベタ降りで受け入れまくることになります。
基本的にはじめの要求は「高い球」を投げる
交渉ではお互いの要求を出し合うところから始まります。
そして、要求にあたっては、「高い球」を投げる(=ふっかける)のが基本です。
例えば、
最終的に、100万円獲得できればいいや
と考えているときは、はじめの要求段階では
150万円をお願いしたい
と、実際に求めていることより高い水準の要求をします。
これはアンカリングと呼ばれるもので、交渉の基本です。
ただし、例外の状況もありますので、常に高い球を投げれば良いかというとそういうわけではありません。
例外的な状況などについては別の記事でまとめておりますので、ごひご覧いただければ幸いです。
交渉に入る前に、まずは理屈で戦う
お互い要求を出し合った後に、
我々はこれを諦めるから、そっちはそれを譲ってほしい
といきなり交渉に入ってはいけません。
まずは理屈で戦いましょう。
なぜその取り組みが必要なんですか?
もうすでに似たような取り組みをしてますよね?
とか、
その目的を達成する上では、もっとリーズナブルな手段が取れますよね?
とか、
そんなに多額のお金が必要なんですか?
算出根拠が少しおかしくないでしょうか?
といった感じで、論理的な指摘をまずは積み上げていきます。
本格的な交渉に入る前に、理屈で相手の要求を縮められる時も多いです。
逆にいうと、自分が要求する時も、相手はまず理屈で戦ってくるので、自分の要求は論理的なものに仕上げる必要があります。
交渉方法は3つしかない
お互いの要求を出し合い、理屈での議論が終われば、そこから交渉が本格化するわけですが、その際の手法は、
- 利益を与える
- (合法的に)脅す
- 感情に訴えかける
の3つしかありません。
それぞれ見ていきましょう。
利益を与える
「利益を与える」は、一番基本的な交渉手法で、
我々はこれを諦めるから、そっちはそれを譲ってほしい
と、相手に利益を提供するバーターでこちらも利益を得る手法です。
こちらから提供する「利益」は、内容の譲歩だけではなく、「回答期限を延ばしてあげる」などの交渉手続なども含まれます。
要求時に「高い球」を投げて、その後に、
ここまで要求を下げてもいい
とするのも、「利益を与える」の典型ですね。
自分としてはどうでもいいカードを譲って、相手から意味のあるカードを引き出せれば、交渉巧者です。
(合法的に)脅す
「(合法的に)脅す」は、相手に
向こうの要求を無下に扱ったら、こちらも無傷では済まないな…
と思ってもらう手法です。
相手が「最悪の事態になるよりはマシだ」と考えるようになれば、交渉は大きく進展します。
例えば、維新の会時代の橋下徹は、他の政党に対して、
「大阪都構想」の住民投票の実現に当たり協力してほしい!
もし反対するようであれば、そちらの選挙区に維新の会の候補者を立てる!
と圧力をかけていたとのことです。
また、2021年の自民党総裁選に出馬しようとしていた下村政調会長に対して、総裁再選を目指す菅総理が
総裁選に出馬するようなら、政調会長の任は任せられない
と進退を迫り、下村政調会長に出馬を断念させたのも、この「(合法的に)脅す」に該当するケースですね。
感情に訴えかける
「感情に訴えかける」は、端的にいうと泣き落としです。
効果がある時とない時があります。
維新の会時代の橋下徹が、教職員の給与をカットしようとし、組合と交渉になった際に、組合側は橋下徹の恩師を連れてきて
俺たち教師にも生活があるんだ…
給与カットは考え直してくれ!
と言ってお願いしてきたというエピソードがあります。
結局その時は、橋下徹が
いくら恩師の頼みでも、それはできません
と断って終わったみたいですね。
両者不一致の部分は分解する
交渉ではお互いに譲れない部分が出てきます。
そういった時は、その両者不一致の部分を更に分解して、議論の余地がないかを探っていきます。
例えば、維新時代の橋下徹は、公明党に対して「大阪都構想の賛成」を要求し、公明党が拒否してきたときに、
では、せめて住民投票を行うこと自体は賛成してほしい。
住民投票では、公明党は「大阪都構想は反対」と主張していい。
だから、住民投票の開催だけは譲ってほしい。
と交渉したとのことです。
公務員の人たちも、大臣・知事から無茶な要求をされたときは
大臣・知事からご指示のあった件のうち、この部分は法律に抵触するので絶対できません。
しかし、他の部分は法律上可能なので、大臣・知事のご意向に沿って進めます。
こういった進め方でいかがでしょうか?
と、「具体的にどこが無理で、どこなら対応可能か」を分解して交渉してみることをオススメします。
盤外戦術も馬鹿にならない
人間は、疲れたら頭が働かなくなりますし、長引く交渉で疲労困憊になったら
さっさと交渉を終わらせて、ゆっくりしたい
と思ってしまうものです。
それを逆手にとって、交渉をあえて長引かせたり、難しい専門用語を大量にインプットしたりして、相手をヘロヘロにするという交渉戦術があります。
そう言った場合は、
ほかの会議もあるので、一回の打合せ時間は1時間を上限としましょう
とか、
あなた方の間でも意見がバラバラなので、集約してください
といった感じで、負担を減らす方向に持っていくのも手です。
いずれにせよ、交渉はタフな仕事なので、ヘロヘロになることは覚悟して取り組むことが重要です。
信頼関係は大事
交渉はヒートアップしやすいですが、相手への誠意を忘れてはいけません。
つい勢いで相手を侮辱してしまうなんて以ての外です。
これは道徳の話ではなく、交渉戦略としても重要です。
人間は、
- 好意を持っている人の意見は尊重してあげたい
- 嫌いな人の意見には同意したくない
と思ってしまう生き物だからです。
信頼関係を構築し、
お前が気に食わないから、合意したくない
と言われないようにし、むしろ
あなただから譲りますよ
と言ってもらえることを目指しましょう。
なお、交渉が成立しても、交渉が決裂しても、最後は笑顔で握手するようにしましょう。
同じ相手と交渉しなければいけない機会は割と多いです。
特に公務員の場合は、
総務省が嫌いだから、総務省以外の省庁と地方財政について交渉する!
といったことはできません。
「相手を侮辱しない」などの最低限の礼節を守っていれば、交渉が決裂しても人間的な遺恨を残すことはないので、誠実に対応するようにしましょう。
参考:相手が交渉についてくれないとき
現実問題として、交渉したくても相手が交渉についてくれない時は度々発生します。
そういう場合は、テーブルに着かざるを得ない状況に相手を追い込むしかありません。
例えば、維新の会時代の橋下徹は、国に交渉についてもらうために、テレビなどで
国はぼったくりバーだ!
と騒ぎまくったらしいです。
また、省庁によっては、政策交渉を有利にするために、検討中の政策を自らリークして、世論の反応を見る/世論を焚きつけるという「アドバルーン」を打ってきたりします。
ただ、これらの手法は、交渉相手の心象を害すため、諸刃の剣です。気をつけましょう。
オススメの書籍
今回の記事に関連したオススメの書籍は以下の通りです。
特に、橋下徹の『交渉力 結果が変わる伝え方・考え方』は名著なので必読です。
『交渉力 結果が変わる伝え方・考え方』
『武器としての交渉思考』
『ハーバード流交渉術』
『プロフェッショナル・ネゴシエーターの頭の中』
おわりに
いかがでしたでしょうか。
お仕事の参考になれば幸いです。
政治技術に関する記事も以前書きましたので、そちらも是非!
また、覚えておいたほうがいい心理学・行動経済学も以前書きましたので、そちらもどうぞ!