思考

分析でよく使う「指標の変換」とは?

こんにちは!

皆さん、経営分析とか証券分析の本を読んだことはありますか?
公務員の仕事とは直接関係のない分野ですが、熱心な方は結構読んだことがあると思います。
私も公務員時代に経営分析の本を読んでました。

経営分析や証券分析の本の中には、

経営分析本

こういう指標を分析して経営判断した方がいいよ!

といったことが色々書かれています。

それらの本曰く

  • 販売力のある会社の株を買え
  • 雰囲気がいい飲食店は繁盛する
  • 経営者の資質が優れているかどうかが一番重要だ
  • 既存事業が立ち行かなくなり新規事業への逼迫度が高い業界は危険

などなど

これを見ると、ぶっちゃけ、

それってどうやって分析するんだよ!?

と思いませんか?(当時の私は思いました)

マイケル・ポーターの『競争の戦略』とかにはそういった指標が出まくっていて、困惑したことを覚えてます。

今回はそのお話です。

はじめに

オススメされている分析が、

経営分析本

利益率の高い会社を買え!

とかなら、そのやり方は簡単にイメージできますよね。

利益率という数字は存在していて、あとはその具体的な利益率が「高いか?低いか?」を判断すれば良いだけだからです。

例えば、

ある人

A社の利益率は5%!

と分かった場合、「高い」「低い」というのは何かと比較してはじめて判定されるものですから、あとは似たような会社の利益率と比較すれば良いわけです。

一方で、「販売力があるか?」とかはどうでしょう?
そもそも販売力という数字が存在しないのに、どう判断すれば良いのでしょうか?

私はいつも

「販売力」を確認すべきだということはわかったけどさ…

その「販売力」の分析の仕方を教えてくれよ…

と途方にくれてました。

そして、経営コンサルになって、色々な分析をする中で、どう考えればいいのかがなんとなく分かってきました。
その指標をストレートに調べることができないので、創意工夫をして擬似的な指標を 「捻り出す」必要があるため、私は「指標の変換」という表現を使って、後輩を指導していました。

今回の記事でその考え方をご紹介しますので、是非皆さんも「指標の変換」を使えるようになっていただければと思います。

昔の私のような「途方に暮れる人」が少しでも減ったら嬉しいです!

代替数字に置き換える

指標の変換の1つ目です。
調査項目をストレートに表現する数字が存在しなければ、代替数字に置き換えましょう。

「利益率の高さ」という調査項目の場合は、”利益率”というストレートな数字が存在しますよね。

一方で皆さん、

新聞

日本の企業の「研究開発力」がどんどん落ちている!

みたいなニュースを見たことがありませんか?

あなた

あー結構前から報道されているよね。

確か、日本企業より海外企業の方が『特許出願数』が多いとかなんとか

という感想を持った人も結構いると思います。

それです! その特許出願数が「代替数字」です!
冷静に考えて、「研究開発力=特許出願数」とはならないことは誰でもすぐわかると思います。

ただ、「研究開発力」をストレートに表現する数字が存在しないので、代替数字として

  • 特許出願数
  • 研究開発費の額・割合
  • 論文の被引用数

とかを使っているんです!

ここで、冒頭の「販売力のある会社の株を買え」を考えてみましょう。
販売力をストレートに表現する数字が存在しないので、代替数字を探してみましょう。
代替数字の候補としては色々あるので、その場その場で最適なものを判断する必要があります.

仮に今回調査しようとしている会社の業界が、「飲料メーカー」だったらどうでしょうか?

飲料メーカーの販売方法としては色々ありますが、いの一番に思いつく販売方法は、「自動販売機」じゃないでしょうか?
なので、飲料メーカーの販売力調査として、メーカーごとの「自動販売機の設置数」を調べたりします。

これが代替数字を置くということです。

基準を設ける

指標の変換の2つ目です。
基準を設けて、その基準を満たすかどうかで判定します。

冒頭の「雰囲気がいい飲食店は繁盛する」「雰囲気」について調べるやり方の1つとして、

ある人

その飲食店から出てきたお客さん10人に突撃インタビューをしよう!

そして、「雰囲気がいい」と回答した人が、

  • 7人以上なら『雰囲気がいい』
  • 4-6人なら『雰囲気は普通』
  • 3人以下なら『雰囲気が悪い』

と判定しよう!

というルールを設定するという手があるでしょう。
これが「基準を設ける」ということですね。

これを聞くと、

あなた

聞く相手は10人だけでいいのかな?

あなた

10人の選び方はそれでいいの?

あなた

なんで”7人以上”が基準なの?

などなどのツッコミが出てくるでしょう。

その気持ちはわかりますが、

  • そもそも「雰囲気がいい」をストレートに表す数字がないし、
  • 統計情報などから代替数字になり得るものを探してもピンと来ない

という場合は、このように判断するのは仕方ないのです。

定性情報を基に、順番や強弱だけをつける

指標の変換の3つ目です。
具体的な数字には落とし込めなくても、定性情報を基に、「こっちよりもそっちの方が上だろう」といった感じで順番をつけたり、大・中・小といった強弱をつけたりします。

経済学でいうと、基数的効用ではなく、序数的効用の考え方を使う感じです。

冒頭の「経営者の資質が優れているかどうかが一番重要だ」「資質」について考えてみましょう。

「資質」に客観的な点数をつけることはできないものの、

ある人

企業経営の経験はありませんが、自信だけはあります!

という人と、

ある人

過去に似た業態の会社を成功させた実績があります!

という人がいれば、比較して、

あなた

後者の経営者は、一般の経営者より資質がある方だろう

と判断することはできるはずです。

就活でも、学歴で判断されることがありますよね。

あれも、定性情報を基に、順番や強弱だけをつけるの考え方を使っていることになります。

このご時世、学歴だけで判断せず、もっと他の定性情報を判断項目に設定すればいいのにと思ってしまいますが・・・

構成要素などに細分化した上で、それらを統合する

指標の変換の4つ目です。
指標をそのまま判断しようとせず、その構成要素などをまず判断し、それら細目の判断結果を統合して指標の判断をするという考え方です。

説明が難しいので、冒頭の「既存事業が立ち行かなくなり新規事業への逼迫度が高い業界は危険」を例にとります。

「新規事業への逼迫度ってなんだよ?」と我ながら思いますが、

ある人

既存事業が追い詰められていて、新規事業に活路を見出さなければいけない…!

という状況に追い込まれている度合いと思ってください。

ここで、

ある人

『既存事業が追い詰められてるから、新規事業に活路を見出さなければ』と考えている業界は、どういう業界か?

どういう要素が揃っていたら、新規事業への逼迫度が高い業界とみなせそうか?

と考えてみます。

まず要素1として挙がるのは、「市場規模が縮小している」ことでしょう。
全体のパイが小さくなっているのであれば、どうにかして他のマーケットに移る必要があるからです。

要素2として、「規制当局の動き」があるかもしれません。
2018年に菅官房長官(当時)が

官房長官

携帯キャリア各社に通信費を4割削減させる

と言っていましたが、こんな感じで規制当局から利益減の圧力を受けている業界は

携帯キャリア

このままだと、既存事業は規制を受けて利益が減っていくだろうから、今のうちに新しいビジネスを考えておくか

となる可能性が高いのではないでしょうか?

他にも要素はたくさんあるでしょうが、とりあえずこの2要素で「新規事業への逼迫度」を決めてみましょう。
決め方は、大きく2つあります(他にもあるかもしれませんが思いつきませんでした)

1つ目は、「割り当て表」を作って、それと照らし合わせて逼迫度を決定するやり方です。
割とメジャーなやり方だと思います。

2つ目は、計算式を作それに当てはめて逼迫度を決定するやり方です。
今回の場合、「市場規模の推移」が与える影響の方が高いと思うので、2倍のウェイトをつけて計算しようとしています。

これが、「構成要素などに細分化した上でそれらを統合する」という考え方です (この呼び方は私が勝手にそう呼んでいるだけですが笑)

おわりに

以上の説明を聞いて、

あなた

なんか曖昧だなー

と思った人もいると思いますし、その気持ちは非常にわかります。
私も昔はこの曖昧さに気持ち悪さを感じていました。

ですが、どこまでいっても客観的な”計算尺”は作れません。
「いびつな計算尺だなぁ」と思いつつ、必ずどこかで割り切る必要があります

重要なのは「客観的な計算尺を作り出すこと」ではありません。
重要なのは「いびつな計算尺でいいから、複数の事象を”同一の計算尺”で判定すること」です。
この優先順位は絶対に守りましょう!

それを踏まえてもなお、

あなた

とはいえ、○○の部分をもっと工夫すれば、もっと客観性を持たせることができるのは?

と考えた方がいらっしゃるかもしれません。

素晴らしい知的好奇心ですし、記事を書いた私としても冥利に尽きます。
なぜなら、もしあなたが、先ほどまで、

あなた

どう分析すればいいんだろ…

と、昔の私のように見当もつかない状況にいたにもかかわらず、今では

あなた

こうすればもっと良い分析になるのでは?

と検討を深められる状況になったのであれば、それはまさに「分析の枠組みの提示に成功したことに他ならないからです。

創意工夫の余地がたくさんあるのは本当にその通りなので、ご自身で検討するときは、より厳密な「計算尺」の作成にチャレンジしてみてください!

以上です。
今後のお仕事の参考にしていただければ幸いです!