こんにちは!
今回は公務員の方向けに折衝の考え方についてご紹介します。
これまで当ブログでは、
- 交渉の考え方
- 権謀術数の実例
などをご紹介してきました。
これらは一般論としての側面が強かったのですが、今回は公務員の折衝としてメインとなる
- 財務省/財政課との予算折衝
- 政治家/業界団体との折衝
を念頭に、重要な観点をご紹介していきます。
では、いきましょう!
高い球を投げるのが基本だが例外もある
交渉ではお互いの要求を出し合うところから始まります。
そして、要求にあたっては、「高い球」を投げる(=ふっかける)のが基本です。
例えば、
最終的に、100万円獲得できればいいや
と考えているときは、はじめの要求段階では
150万円をお願いしたい
と、実際に必要な内容より高い水準を要求することになります。
これはアンカリングと呼ばれるもので、交渉の基本です。
ただし、例外の状況もあります。
つまり、あえて”低めの球”を投げなければいけない時があるということです。
具体的には、「振り上げた拳を容易に下ろせない時」が該当します。
例えば、交渉内容が「強大な政治圧力を受けやすいもの」である場合は、
要求した額を100%勝ち取らないと、許さないからな!
という圧力がかかってくるので、その場合には「高めの球」ではなく、「低めの球(=最終的な落としどころ)」をはじめから要求することになります。
もしあなたが補助金制度を新設しようとして財務省に要求する際に、
最終的に、1億円獲得できればいいや
と考えていたとします。
そこで、もし族議員達がその補助金制度を非常に重視している場合は、
2億円でお願いします
と、はじめの要求で「高い球」を投げたりはせず、
1億円でお願いしまーす
と、はじめから最終的な”落とし所”の水準を要求することになります。
これは、その補助金制度を非常に重視している族議員達が
この制度は非常に重要なので、財務省に値切りを許すな!
満額回答を獲得しろ!(=はじめの要求額を死守しろ!)
と圧力をかけてきて、はじめに2億円という「高い球」を投げてしまうと、そこから降りられなくなってしまうからです。
「高い球」を投げるのが基本ですが、究極に政治圧力が強い時などは、極力「低い球」を投げなければいけない、ということは理解しておきましょう。
相手に”怒る理由”をプレゼントするな
折衝にあたっては、これでもかというくらい低姿勢で臨みましょう。
これはマナーとかそういう話ではなく、交渉戦略としてそうした方が良いからです。
低姿勢で臨まないせいで交渉が難航した例としては、防衛省の秋田県へのイージス・アショアの交渉があります。
これは、地元で反対の根強いイージス・アショアに関して、防衛省が住民向けの説明会を開いたのですが、その最中に防衛省の職員が住民の前で居眠りをしたため、住民が激怒したというものです。
公務員が政策を推進する際には、必ずそれに反対する人たちが出てきます。
そういった反対する人たちを相手に粘り強く交渉をし、国・地域として必要な政策を実行していく必要があります。
にもかかわらず、「会議で居眠りしてた」といったことが起きればそれが話題の中心となってしまい、どんなに良い内容の政策であっても推進は不可能になってしまいます。
折衝の中心テーマを「政策の内容の是非」にするためにも、交渉の際は低姿勢で臨むようにしましょう。
また、公務員が折衝する相手は様々ですが、その中でも強敵が2タイプいます。
それは、
- 合理性よりも、「気に入る/気に入らない」という観点を優先する”感情的なタイプ”と
- 冷静だが武闘派で、目的達成のためなら怒鳴ることも厭わない”パワープレイ型のタイプ”
の2タイプです。
これらのタイプに対しては、これでもかというくらい低姿勢で折衝に臨まないとどんどん状況が悪化していきます。
まず”感情的なタイプ”ですが、これらの人々は一度ヘソを曲げると
不愉快だ!
あんたとは話したくない!
といった感じで交渉のテーブルにすら着いてくれなくなりますので、下手に刺激しないように低姿勢で対応する必要があります。
なお、これらの人々への対処方法は以前記事にしておりますので、そちらもぜひご覧ください。
次に”パワープレイ型のタイプ”ですが、これらの人々は往々にして交渉巧者で、圧力をかけられるタイミングが来たら見逃しません。
例えば、あなたが”パワープレイ型のタイプ”と金額について交渉していたとします。
その際、もし交渉相手であるあなたが交渉の場に遅刻してきた場合、”パワープレイ型のタイプ”は、
どれだけ我々を待たせたら気が済むんですか!?
時間すら守れないなら、この交渉で決めた約束もきちんと守られるか怪しいですね!!
と烈火の如く怒鳴ってくるでしょう。
ただ、彼らは本心では別に怒ってないのです。
彼らは、
キレる大義名分ができたから、一発怒鳴っておくか。
これで相手が負い目を感じたら交渉で色をつけてくれる可能性があるし、少なくとももっと丁重に対応するようになるだろう。
といった感じで、あくまで交渉を有利にするために、威圧的な態度をとる大義名分をゲットしたから手段論として怒鳴っているだけであり、むしろ内心は冷静な場合が多い印象です。
いずれにせよ、”パワープレイ型のタイプ”にも低姿勢で対応しておかないと、交渉はどんどん公務員側に不利になっていきます。
自分ができないことを相手に求めるな
公務員の折衝にあたって重要なことの一つに、「自分ができないことを相手に求めるな」というものがあります。
これは別に公務員に限らず民間企業でも重要なのですが、交渉相手が基本的にずっと一緒である公務員の方がより気をつける必要があります。
民間企業の場合、契約更新のタイミングでサプライヤーを変えるといったことが可能です。
一方で、公務員の場合は
財務省が嫌いだから、来年の予算要求は財務省以外に対して行おう…
といったことができません。
そして、交渉相手がほぼ変化しないということは、これまでの交渉経緯が積み重なっていくということになります。
つまり、もしあなたが今年、
こういう理由で、AAAしてもらわないと困ります!
という主張をした場合、来年は
AAAしてもらえますか?
理由は昨年あなたがおっしゃったものと全く同様です。
という主張を交渉相手があなたにしてくる可能性があるということになります。
このため、自分が相手に何かを要求するときは、必ず将来相手も同様の要求をしてくると事前に理解しておく必要があり、相手がオウム返しをしてきたときに自分の首を絞めないかをあらかじめ確認しておく必要があります。
自分ができないことを相手に求め、結果的に自分の首を絞めることとなった典型的な事例は、野党の”政治資金パーティー開催禁止法案”でしょう。
これは自民党の裏金問題を受け、そこを攻めるために立憲民主党が提出した法案で、最終的には否決されています。
野党は、
どうせ多数を握る与党が反対して廃案になるんだから、その前提でセンセーショナルな法案を作成して世論にアピールしよう!
という行動を時々やりことがあり、それ自体は何も問題ない(というか戦略としてやっていくべき)のですが、「政治とカネ」という国民の拒絶感が強いセンシティブなテーマの場合は、踏み込み具合は調整すべきだったかもしれません。
立憲民主党の”政治資金パーティー開催禁止法案”は中々急進的な内容で、小沢一郎氏が
規制強化ばかりでは自縄自縛になり、どうしようもなくなる
政治資金パーティーもダメ、企業・団体献金もダメと何でもダメにすると、お金については潜りに潜って裏の話になってしまう
と主張するなど、立憲民主党内からも批判が出る内容でした。
結局法案は(無事?)否決はされたものの、立憲民主党は法案提出した手前、自分達が政治資金パーティーを開くことが中々できなくなっており、結果的に立憲民主党議員が資金繰りに苦しむというまさに”自分の首を絞める”結果になっています。
オススメの書籍
今回の記事に関連したオススメの書籍は以下の通りです。
『交渉力 結果が変わる伝え方・考え方』
おわりに
いかがでしたでしょうか。
お仕事の参考になれば幸いです。